大手チェーンの常識を破る、丸亀製麺のクレイジーさ

純手打うどん よしや

山下 義高

2025.8.26


本場さぬきの人気店「純手打うどん よしや」店主・山下義高さんは、香川が世界に誇る讃岐うどんに人生を賭け、1日として“うどんのない日”がありません。職人として、発信者として、そしてつなぐ人として。彼の目に映る、丸亀製麺とは――。

音楽から、うどんでメジャーを目指す

いつ頃から、うどん屋をやろうと思い始めたのですか?

もともとは音楽が好きで、高校卒業後は東京に出て、音楽関係の仕事もしていたんです。自分がプレーヤーとしてやっていた時期もあったんですけど、そうこうしているうちに実家の旅館を手伝わなくてはいけなくなって。
それから香川に戻って、旅館を手伝いながらふと思ったんです。小さい頃から「香川県のうどんが一番おいしい」と聞いて育って、「そうか、この人たち日本一か」とうどん職人たちを眺めていたんですけど、こんな身近なところにメジャーリーグがあるわって。
本場が目の前にあって、ここで頑張れば全国トップクラスになれるかもしれない。そんな野心が芽生えてきて地元のうどん屋で働き始めたんですよ。だから、もし僕が長野県に生まれていたら、蕎麦を打っていたと思う(笑)。

屋号にもある「純手打ち」というのは?

機械を一切使わずに、手で練って、足で踏んで、こねて伸ばして、包丁で切る。昔ながらの製法のことです。昔の人は当たり前にやっていたことなんですけど、このやり方でやっているお店は香川でも数軒しかないですね。
もともと自分の生まれ育った香川県琴平町にある名店「宮武うどん」さんが「純手打ち」と銘打ってやっていて、その味を再現したくて弟子入りもお願いしたんです。でも、もう体力的にしんどいから弟子は取らないと断られて。ただ、何でも教えてやるから自分でやってみろと。そこからは試行錯誤の連続でしたね。

「純手打ち」の良さはどういうところでしょうか?

手練り・手切りのうどんは、ねじれたり、縮れたり、凹凸があったり、1本1本が個性的になるんです。純手打ちならではの味わいのある麺になることで、より出汁が麺に絡みつきやすくなって、さまざまな食感も楽しむことができます。

瀬戸内で生まれた丸亀製麺との出会い

丸亀製麺とは、どういうご縁があったんですか?

きっかけは、丸亀市に通称「讃岐広島」という離島があるんですけど、そこに丸亀製麺のうどん作りの研究施設があるんです。そこに移住していた丸亀製麺さんの社員さんが、僕が設立した「うどん協会」に入会してくれて、何か面白いことできたらいいね、なんて話をしていたんです。

そこから「讃岐饂飩(うどん)職人祭」が生まれたんですね。

そうです。なんかフェスみたいなことしたいね、と話をしていたら、渋谷道玄坂店ならできるかもしれないとなって。香川からこだわりのあるうどん職人を連れて、讃岐うどん文化を東京・渋谷のど真ん中から発信していくイベントになりました。

実際にやってみていかがでしたか?

やるなら本気でやりたかったんで、厨房をただ借りるのではなく、お店から厨房設備を持ち込んで仕込みからしっかりやりました。渋谷の一等地で好きなメンバーとうどんを打たせてもらうのも素直に楽しかったし、普段会えないお客さんが来てくれたことも嬉しかったですね。

大手チェーンである丸亀製麺に思うこと

丸亀製麺に対する印象ってどうですか?

まぁ最初は、全国に店舗を増やしているチェーンのうどん店ぐらいの認識だったんですけど、全店舗に麺職人がいて、粉から店舗ごとに製麺していると聞いて、正直化け物だなと思いました。そもそも、さぬきの自分たちからしたら、うどんをお店で打つのは当たり前なんですけど、これだけの店舗数でそれぞれが麺打ちをしているなんて、最近になってそのやばさに気づきました。

丸亀製麺の好きなメニューや企画はありますか?

釜揚げうどんで、47都道府県それぞれご当地の「つけ汁」を出されていたじゃないですか?あれは、企画自体クレイジーだなと思いました。47種類作るだけでもすごいし、それぞれ仕入れ先とかも変わるわけで、手間がとんでもなく増えるはずなんですよ。
しかも、こちらとしては地方の特色を出して勝負しているのに、チェーン店にそれをやられたらたまらんぜと思いましたね(笑)。ちょっと食べてみたいご当地つけ汁、何個かありましたけど。

確かにクレイジーですね(笑)。そんな丸亀製麺の今後に期待することはありますか?

やっぱり丸亀製麺さんは「讃岐うどん」の文化とかスタイルを全国に広めてくれた立役者。その味を美味しいと思ってくれるお客さんが、「本場でも食べてみたい」と香川に来てくれる可能性もあると思うんです。
それこそ日本だけじゃなく、海外にも展開しているわけですから、海外のお客さんが香川を訪れるきっかけになるかもしれない。そこで、本場の讃岐うどんの味を楽しんでもらって、また旅先から帰ったら、自宅近くの丸亀製麺さんを利用するという、良い循環を作っていきたいですね。

最後に、山下さんにとってうどんとは何でしょうか?

最近は、コミュニケーションツールだと感じています。お店でのお客さんとの交流もそうですし、うどんを通じて丸亀製麺さんとのご縁もそうですし、渋谷でうどんを打つのもそう。色々なつながりを生んでくれるものだなと思います。

PROFILE

山下 義高(やました・よしたか)

香川県生まれ。2009年「純手打うどん よしや」を開業。機械を使わない手打ち・手切りにこだわり、全国にファンを持つ店へと成長。2024年にはうどん文化の未来を見据え「日本うどん協会」を設立。『情熱大陸』への出演や、丸亀製麺・渋谷道玄坂店で開催された「讃岐饂飩職人祭」への参加など、讃岐うどんの魅力を伝える存在として注目を集める。